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釧路地方裁判所 昭和32年(レ)23号 判決 1958年7月14日

控訴人 古沢正利 外二名

被控訴人 国 外一名

国代理人 林倫正 外二名

主文

原判決中控訴人等の被控訴人国に対する請求を棄却した部分を取消す。

控訴人等の被控訴人国に対する訴を却下する。

控訴人等のその余の控訴を棄却する。

訴訟費用は第一、二番とも控訴人等の負担とする。

事実

控訴人古沢正利は、「原判決を取消す。被控訴人等が、別紙目録記載の第一の土地につき、控訴人古沢正利と訴外萩原正勝との間の昭和一七年六月二九日帯広区裁判所本別出張所受附第一四三号による土地賃借権設定登記を昭和二五年四月一〇日釧路地方法務局本別出張所受附第二六八号を以てなした抹消登記は無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」との判決を求め、控訴人古沢寛美は、「原判決を取消す。被控訴人等が別紙目録記載の第二の土地につき、控訴人古沢寛美と訴外川田ノヘコサンとの間の昭和一四年一二月九日帯広区裁判所本別出張所受附第九〇五号による土地賃借権設定登記を昭和二五年三月二五日釧路地方法務局本別出張所受附第二一号を以てなした抹消登記、及び被控訴人等が別紙目録記載の第三の土地につき、控訴人古沢寛美と訴外小川槇雄との間の土地賃借権設定登記を昭和二四年六月三日釧路地方法務局本別出張所受附第一三四号を以てなした抹消登記は何れも無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」との判決を求め、控訴人本別金融合名会社は、「原判決を取消す。被控訴人等が、別紙目録記載の第四の土地につき控訴人本別金融合名会社と訴外小川槇雄との間の昭和一七年一〇月五日帯広区裁判所本別出張所受附第二八五号による土地賃借権設定登記を昭和二五年四月一〇日釧路地方法務局受附第二九四号を以てなした抹消登記は無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」との判決を求め、被控訴人等は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人等の負担とする。」との判決を求めた。

控訴人古沢正利は請求の原因として、「控訴人古沢正利は昭和一六年六月十九日、一七年二月一七日及び同年六月二九日、訴外萩原正勝との間に、別紙目録記載の第一の土地につき、二〇箇年宛四箇合計八〇年の始期附土地賃貸借契約を結締し、賃借料全額を前払いし賃借権設定登記を了した。而して、被控訴人等は右土地を買収し、昭和二三年七月二日、右土地に対する控訴人古沢正利のための賃借権設定登記の抹消登記をしたうえ訴外真田寅太に対し売渡し昭和二五年四月一〇日その旨の登記手続を経由した。しかしながら被控訴人等は、右買収及び売渡に際し、当時小作人の立場にあつた控訴人古沢正利に対し何らの通告をなさず、又これに補償金の支払いもしていない。かかる手続をなさず、控訴人古沢正利のための右土地に対する賃借権設定登記を抹消した被控訴人等の行為は無効であるから、その確認を求める。」と述べ、控訴人古沢寛美は請求の原因として、「控訴人古沢寛美は昭和一四年一二月一日、訴外川田ノヘコサンとの間に、別紙目録記載の第二の土地を含む北海道中川郡本別町大字本別村基線九五番地原野四町六反二二歩のうち二町一反九畝歩(北隅より東方へ長さ一三二間、北隅より南方へ幅九五間、西隅より東隅へ曲線一六七間)につき、期間は昭和二九年一月一日から二〇箇年宛三箇合計六〇年の始期附賃貸借契約を結び賃借料は一〇〇円と定めて全額前払いし、賃借権設定仮登記を了した。而して、被控訴人等は右土地を買収し、昭和二三年一二月二日、右土地に対する控訴人古沢寛美のための賃借権設定仮登記の抹消登記をしたうえ、そのうち別紙目録記載の第二の土地を訴外久常梅久に対して売渡し昭和二五年四月一〇日その旨の登記手続を経由した。又控訴人古沢寛美は、昭和一四年四月二二日、訴外小川槇雄との間に、別紙目録記載の第三の土地につき賃貸借契約を結び、昭和一四年四月二二日及び同月二四日賃借権設定登記を了した。而して、被控訴人等は右土地を買収し、右土地に対する控訴人古沢寛美のための賃借権設定登記の抹消登記をしたうえ、訴外小川槇雄に対して売渡し昭和二四年六月三日その旨の登記手続を経由した。しかしながら被控訴人等は、右買収及び売渡に際し、当時小作人の立場にあつた控訴人古沢寛美に対し何らの通告をなさず、又これに補償金の支払いもしていない。かかる手続をなさず、控訴人古沢寛美のための右土地に対する賃借権設定登記を抹消した被控訴人等の行為は無効であるから、その確認を求める。」と述べ、控訴人本別金融合名会社は請求の原因として、「控訴人本別金融合名会社は、昭和一四年八月二一日、訴外小川槇雄から、別紙目録記載の第四の土地を含む北海道中川郡本別町大字幌蓋村字ホンベツ西一号線六番地原野四町八反五畝歩につき賃借権の譲渡を受け、昭和三一年四月八日より二〇箇年宛五箇合計一〇〇年の賃借権設定登記を了した。而して被控訴人等は、右土地を買収し、昭和二四年三月二日、右土地のうち別紙目録記載の第四の土地に対する控訴人本別金融合名会社のための賃借権設定登記を抹消したうえ、訴外羽生潔に対して売渡し昭和二五年四月一〇日その旨の登記手続を経由した。しかしながら被控訴人等は、右土地の買収及び売渡に際し、当時小作人の立場にあった控訴人本別金融合名会社に対し何らの通告をなさず、又これに補償金の支払もしていない。かかる手続をなさず、控訴人本別金融合名会社のための右土地に対する賃借権設定登記を抹消した被控訴人等の行為は無効であるからその確認を求める。」と述べた。

被控訴人国は「元来確認の訴は、その請求が特定の権利関係の存在又は不存在の確認を求めるものでなければならないところ、本件各訴において控訴人等は、土地賃借権設定登記の抹消登記そのものの無効確認を求めているものである。しかし登記そのものは、特定の権利関係の公示方法に過ぎず、確認の訴の対象となる権利関係には当らないから控訴人等の本件各訴は不適法な訴として却下されるべきものである。」と述べ、被控訴人本別町農業委員会は、「被控訴人本別町農業委員会は農業委員会等に関する法律第三条の規定に明らかなように、地方公共団体である本別町の行政機関であつて、民事訴訟法上の当事者能力を有しない。仮に然らずとするも、控訴人等主張の抹消登記は訴外北海道知事の嘱託に基くものであるから被控訴人本別町農業委員会が当事者適格を欠くことは明らかである。よつて控訴人等の被控訴人本別町農業委員会に対する本件訴は不適法として却下せらるべきである。」と述べ、被控訴人両名は本案の答弁として、「控訴人等主張の土地につきその主張の如き賃借権設定登記がなされていたこと。右土地を被控訴人国が買収し、右賃借権設定登記を抹消したうえ、それぞれ主張の訴外人に売渡したこと右買収及び売渡に際して、被控訴人等が控訴人等に買収の通告をなさず、又補償金を支払つていないことは認めるが、控訴人等が右土地について賃貸借契約を結び、或いは賃借権の譲渡をうけたとの点は知らない。別紙目録記載の第一及第三の土地に対する買収は旧自作農創設特別措置法第三条第一項第一号、同目録記載の第二及第四の土地に対する買収は同法第三条第五項第六号により行つたものであるが自作農創設特別措置法においては、農地を買収し又は売渡す際、都道府県知事が賃借権者等の耕作権者に対して右処分の通知をなすべき旨を定めた何らの規定も存しない。従つて右通知がなければ、当該農地の買収並びに売渡処分が無効であるとの前提に立つ控訴人等の主張は理由がない。又仮に本件農地の売渡処分により該農地に存する控訴人等の賃借権が消滅し、その結果、損失補償の請求権を取得したとしても右補償金の支払の問題と、売渡処分の効力の問題とは全く別個の問題であつて右補償金の支払がなされなかったとしても、そのことによつて一旦有効に成立した売渡処分の効力に何ら消長を来すものではない。従つて、右売渡処分の無効を前提とする控訴人等の主張は理由がない。」と述べた。

証拠<省略>

理由

まず、控訴人等の、被控訴人国に対する訴につき判断する。およそ確認訴訟は、当事者間における現在の特定の権利又は法律関係の存在又は不存在の確定を目的として提起することを要するところ、控訴人等は、かかる権利又は法律関係の存否の確認を求めるに非ずして法律関係の公示方法である賃借権設定登記の抹消登記そのものの無効確認を求めるものであることはその主張自体に徴して明らかであり、かかる確認の訴は適法な訴の対象を欠くものといわざるを得ない。従つて控訴人等の被控訴人国に対する訴は確認判決を求める要件を欠く不適法な訴として却下すべきであり、本案請求の当否について審判をした原判決は失当として取消を免れない。

つぎに控訴人等の被控訴人本別町農業委員会に対する訴については当裁判所は原判決の理由において説示するところと同一の理由により右訴は不適法として却下すべきものと認めるのでこれを引用する。しからばこの点において原判決は正当であつて本件控訴は理由がない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 原和雄 阿部清峯 和田啓一)

目録<省略>

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